甲状腺の病気は大きく分けて二つあります。
一つ目は、甲状腺が作るホルモンの異常による病気
二つ目は、甲状腺にできるしこり(腫瘍)による病気です。
甲状腺ホルモンの異常による病気
@バセドウ病(甲状腺機能亢進症)
甲状腺ホルモンが異常に多いために、動悸、息切れ、頻脈、異常発汗、全身倦怠感、突眼、体重減少、手のふるえ、下痢、暑さに耐えられない、などの症状が出ます。若い女性に多い病気です。
治療には 1)抗甲状腺剤の内服 2)アイソトープ 3)手術がありますが、多くの場合、まず 1)抗甲状腺剤の内服から治療を開始します。
1)抗甲状腺剤(メルカゾール、チウラジール)の内服
寛解率は40%。甲状腺機能が改善するまでに約6週間。
甲状腺機能亢進症状が正常化しても甲状腺に対する抗体が正常化するまでは内服必要。
チウラジールは、妊婦でも内服可能。
メルカゾール、チウラジールの副作用
a)大変まれですが、白血球が減ることがあります。高熱とともにのどが痛むことがあれば、内服を中止し、すぐに当院を受診してください。白血球を測定します。このようなことは飲み始めて3ヶ月以内、あるいはしばらく休薬した後に再開したときにおこることが多いです。
b)発疹を伴ったかゆみが出たら内服を中止し、早めに受診してください。
c)白目が黄色くなったり、尿の色が急に濃くなるなどの黄疸の症状や、食欲不振、吐き気などの症状があれば、肝機能障害の可能性があるのですぐ受診してください。
A橋本病(慢性甲状腺炎、甲状腺機能低下症)
甲状腺ホルモンが異常に少ないために、全身倦怠感、むくみ、寒がり、便秘、皮膚のかさつき、集中力の低下、脱毛などの症状が出ます。治療は甲状腺ホルモンの内服です。甲状腺ホルモンは内服量さえ適正であれば、副作用は殆どありません。
B亜急性甲状腺炎
しばしば発熱や感冒症状を伴い、頚部の痛みが出現します。 甲状腺の細胞が破壊され、一時的に多量の甲状腺ホルモンが血中に漏れ出て、それによる甲状腺機能亢進症状(動悸、暑がり、体重減少など)が出ることがある疾患です。症状が強い場合は消炎鎮痛剤やステロイドの内服が著効します。症状が治癒した後に、一過性甲状腺機能低下をきたすことがあります。
C無痛性甲状腺炎
亜急性甲状腺炎と同じで、何らかの原因(出産など)によって甲状腺の細胞が破壊され、一時的に多量の甲状腺ホルモンが血中に漏れ出て、それによる甲状腺機能亢進症状(動悸、暑がり、体重減少など)が出る疾患です。これらの症状は自然に治りますが、永続性の甲状腺機能低下症になってしまう方もいます。動悸がひどい場合にはβ遮断薬を使って症状を和らげることもあります。この病気は、血液中の甲状腺ホルモンの量だけでは、バセドウ病と区別がつきませんが、血液検査などで診断可能です。そのため、ヨード摂取率の検査が必要となります。甲状腺が壊れていますのでヨードがほとんど取り込まれません。また、甲状腺機能低下になれば、それがずっと続くこともありますので、定期的なホルモン値の検査が必要です。
甲状腺にできるしこり(腫瘍)による病気
@濾胞腺腫
良性腫瘍ですが、濾胞癌との区別が難しく、3cmを超えるものは手術をお奨めします。
Aのう胞
液体がたまった袋が甲状腺の中にあるという状態です。基本的に経過観察でよいですが、大きくなった場合に中の液体を抜くことがあります。
B腺腫様甲状腺腫
@の腫瘍が甲状腺内に多発している状態です。基本的に経過観察でよいです。
C甲状腺癌
症状 のどのしこり。声が嗄れることや飲み込むときの違和感で発見される。
4:1で女性に多い
乳頭癌
甲状腺癌の約80%を占めます。予後良好。10年生存率85%以上。乳頭がんのうち90%は性質のおとなしいタイプ(低危険度)なのですが、10%は遠隔転移や浸潤をする悪性度の高い(高危険度)ものもあります。リンパ節によく転移をしますが、予後には影響ありません。
濾胞癌
頻度は10〜15%。結節は比較的やわらかい。肺などに血行性転移が多い。
髄様癌
家族性発症が見られる。多発性内分泌腺腫症の中の一疾患として発症することがあり、特に褐色細胞腫の合併に注意が必要です。CEA、カルシトニンが上昇します。
未分化癌
頻度は3〜5%。比較的高齢者に多く、甲状腺腫が急速に増大します。極めて悪性であり、予後不良です。
検査方法
一般的な検査
1. 視触診
甲状腺は頚部の前面に位置し、通常は触れません。甲状腺を触れるということ自体が重要な所見です。ご自分で甲状腺を触れることができる場合には、受診が必要です。
2. 超音波検査
超音波の物質への反射の仕方の違いを利用して検査します。甲状腺の病気を診断するうえで最も優れている検査です。腫瘍が認められる多くの場合で、下記の穿刺吸引細胞診を行います。
穿刺吸引細胞診
超音波検査で確認しながら腫瘍に細い針を刺して細胞を採取し、細胞の良悪を顕微鏡で判定する検査です。約1週間で結果が分かります。
ヨード摂取率検査
甲状腺は、ヨードを材料にして甲状腺ホルモンを合成していますが、この検査は甲状腺がヨードを取り込む性質を利用して行う検査です。甲状腺の活動度が判定でき、主に甲状腺機能亢進症(バセドウ病、無痛性甲状腺炎、亜急性甲状腺炎)の鑑別に有用です。24時間後の摂取率では、バセドウ病では異常高値となり、無痛性甲状腺炎、亜急性甲状腺炎では3%以下の低い値になります(正常値 10〜40%)。検査の実施前には1週間のヨード制限が必要です。放射線を用いるため、妊婦や授乳中の女性は施行できませんので注意が必要です。